ケモノ
ケモノ(獣、けもの、kemono)は、日本固有の擬人化文化とそのサブカルチャーの総称である。
特に四足獣を擬人化したキャラクターを「ケモノキャラ」と呼び、それらを好む人々は総じて「ケモナー」、または「ケモノ好き」と呼ばれる。このジャンルでは、人間のような特徴(例:二足歩行、会話が可能)や設定(例:人間に似た社会の形成)に即した動物キャラクターが好んで用いられる。ケモノキャラの多くは絵画、マンガ、アニメ、ビデオゲームのデザインに広く使用され、世界的に人気なキャラを数多く輩出している。ケモノとは別に人間の特徴をより多く備えたキャラクターを「獣人(じゅうじん)」と呼ぶことがある。
ケモノキャラクターは、デザインの元になった本来の動物のように振る舞うことは少なく、特別な設定がない限り人間的な性質を付与される。例えばケモノキャラは多くの場合二足歩行であり、会話やコミュニケーション、人間的な論理的思考が可能であり、人間的な(或いはそれに準ずる)営みを行うように描かれる。ただし、これは制作者の意図や、キャラクターの設定によって異なる場合がある。
ケモノキャラは企業、自治体などによって商品やフランチャイズ、地域のシンボルマスコットとして生まれる場合と、個人の創造物として生まれる場合とがある。後者の場合、(1.)同人誌即売会やSNSなどを通じ、同人誌や絵画を媒体として、(2.)着ぐるみや三次立体物などの立体造形作品として、(3.)配信サイトやメディアを通じてVチューバー(いわゆるケモVtuber、別名ケモV)として広く共有される。ケモノのキャラクターやそのサブカルチャーを好む人はケモナーと呼ばれるが、これは「ケモノ」と英語の「-er」を接続した造語である。また、その呼称については後述の通り議論を呼んだことがある。
目次
歴史[編集]
平安時代から鎌倉時代にかけて[編集]
日本人と動物の関わり合いは深く、平安時代初期に書かれた日本霊異記には既に狐と人間の物語が記されている。[1]
その他、因幡の白兎を始めとする昔話には喋る動物たちが数多く登場し、お伽話に彩りを添えている。日本最古の書物、古事記にも尾の生えた生尾人(いくおびと)なる人物が登場するが、果たしてこれが擬人化された動物を示しているのかは不明である。
日本で最初に原型を残して擬人化された動物は、十二世紀に描かれた鳥獣人物戯画[2]に登場する。本絵巻には直立歩行するうさぎや狐、猿やカエルなどを確認することが出来る。
江戸時代から明治初期[編集]
江戸時代には大衆文化として数多くの動物たちが浮世絵に登場した。歌川国芳の浮世絵には(無類の猫好きであったためか)数多くの猫や犬などが散見できる[3]。これらは度々ユーモアに溢れた姿で、時には鋭い風刺を持って描かれている。その他歌川芳藤、歌川広重や葛飾北斎の作品にも度々動物が登場している。また1874年から1881年にかけて発刊された当時の新聞記事である大阪錦絵新聞には、狐に化かされた男の話がある。[4]
戦前から戦後にかけて[編集]
その後擬人化文化は大衆から姿を潜め、再び表舞台に登場するのは田河水泡による「のらくろ」(1931年)である。この頃はアメリカでトーキーが盛んになり、「フィリックス・ザ・キャット」や「蒸気船ウィリー」(後のミッキー・マウス)など多くの擬人化作品が世に生まれ、数多くの日本人がその影響を受けた。中でも手塚治虫は強く影響を受け、後々に数多くの擬人化作品を生み出している。とりわけ「ジャングル大帝」は擬人化作品でも類を見ない大人気を博した。また「W3」やアニメ作品「大自然の魔獣バギ」では当時にしては大変珍しい二足歩行獣を主体としたストーリーが展開されている。
サブカルチャーへの偏移[編集]
その後一時の停滞期を経て、動物を主軸に据えた作品はゲームやマンガ、アニメ等ポップカルチャーへの拡がりを見せる。1980年代から1990年代にかけては名探偵ホームズ(1984年)を始め、銀牙 -流れ星 銀-(1983年)やジーンダイバー(1994年)など、動物を主役・準主役に据えたアニメ作品が数多く登場し、ゲーム業界でもソニックシリーズ(1991年)やスターフォックスシリーズ(1993年)、ポケットモンスター(1996年)、風のクロノア(1997年)、テイルコンチェルト(1998年)など、ケモノキャラの多い作品が登場した。また2000年には大変珍しい成年向けケモノゲーム闇鍋Ariesも発売した(ただし本ゲームはオムニバス形式で、ケモノが登場する「Tail Tale」は飽くまでものその中の一つという位置づけでしか無い)。
これらの登場に伴い、徐々にファン同士の交流が生まれ、当時ようやく普及し始めたパソコン通信と同人誌即売会のコミックマーケットなどでコミュニティは小規模ながら形作られていった。しかしながらその人口は少なく、コミュニティ同士の繋がりも希薄だったため、人口の増加には中々つながらず以後10年近くはひっそりと展開していくことになる。
1980年代にコミックマーケットが初めて東京国際見本市会場(東京・晴海、1996年閉場)で開催されると同人活動が活気づき、特に吾妻ひでおを筆頭とする「ロリコン・ブーム」が興る。この同人活動の黎明期において、主に猫耳キャラの相手としてケモノキャラが登場しはじめる。[5]特にシベールにINU名義で参加した豊島ゆーさくは当時から異端とされ[6]1985年のStudio Awakeの作品(G SPOT)にケモノキャラを登場させている[7]。後の1992年に豊島ゆーさくはサークル、ジュウカンオウコクを発足させTrumpやPacificと同人誌、獣姦王国を作成している。
1990年にはにゃん太郎がサークルワンニャン倶楽部を発足。初の動物キャラ同人誌、Dream Boxを刊行した。[8]同サークルは1992年に初の成人向け同人誌、ごめんネも刊行している。ケモノキャラは当時動物キャラクターと呼称されていた。[9]
1998年、はりもぐどらごん、にゃじら、扇堂まひょうの3人によって同人サークル「KEMONERS 02(ケモナーズ)」が立ち上げられた。サークル名が示すとおり、当時からケモナーという単語が用いられていたことが伺い知れる。また、このサークル名こそケモナーの語源となったという説もある。
1999年1月にポケモン同人誌事件が発生する。ポケモンの同人誌を販売した同人作家(ケモノジャンルでは活動していない)が逮捕された事件で、これにより、ポケモンを始めとするケモノ系の同人活動が萎縮した。
また1990年代後半からオンライン上でも、個人サイトやブログを通じてコミュニティへの参加者が増加した。獣コミュニティ・FANG(1997年)やけものサーバ(2002年)、けもサーチ(2004年)はこの時期に運用が開始された。2007年に日本で初めての着ぐるみイベントであるとらんすふぁが行われ、2011年には初のケモノ系同人誌即売会である獣人祭が名古屋で、ふぁ~すとが東京で行われた。現在、ケモノコミュニティはPixiv、Twitter、mixiなどのSNSサイトを通して急速に発展している。
ケモノと交流[編集]
交流サイト[編集]
日本にはFur Affinityの様なケモノ交流サイトは存在せず、TwitterやmixiなどのSNSサイトか5ちゃんねるやふたば☆ちゃんねるといった匿名掲示板で細々と交流するケースが多い。特にPixivが占める比重は大きく、コンテンツの充実に貢献している。
イベント[編集]
小規模なオフ会(Furmeet)が各地で開催されるほか、規模の大きいイベント(コンベンション)も度々開催されている。
大きく分けて着ぐるみ参加型イベントと同人誌即売会の2種類があるが、ふるもっふではクリエイター向けのブースを設置したり、
けもケットでは着ぐるみ用のスペースを設ける事があり、必ずしも単純な区別はできない。
- 着ぐるみ参加型イベント – 着ぐるみ参加型イベントでは着ぐるみとの交流、お披露目や、写真会、ダンスなどで楽しむ。
- 年2回開催されるコミックマーケットにも毎回大勢の参加者が訪れる。
同人通販[編集]
サークルによる個人通販のほか、国内でケモノ系同人をひとつのジャンルとして扱っている会社は2つあり、上記の同人誌即売会に参加できない人へ大きな助力となっている。
- このほかの同人ショップでも少数ながら扱っていることがある。
定義の問題[編集]
「一体何処までがケモノなのか」という質問に対する回答は人により大幅な差があり、しばしば議論を呼んでいる。これらの定義は人によって違うが、大まかに分けて4つのグループに大別できる。
- 人間の体にネコミミやしっぽ等、動物的特徴が付随したもの
- 頭部が獣、身体が人間であること
- 全身が動物の体毛で覆われ、耳や尻尾など動物らしさを特徴付けるシンボルが付随したもの
- 体毛の比率の好みは人によってまちまちであるが、少なくとも体表の70%以上を覆っている場合が多い。
- 人間の体毛がこれに含まれることは無い。
- 動物が人間らしい特徴を持つ
また、ドラゴンやポケモン等はケモノに含まれるのかなども度々議論を呼ぶ。
ファーリーの訳語としてのケモノ[編集]
ケモノの訳語としてファーリーが、あるいは逆が度々当てられるが、二つは必ずしも同じ意味でないことに留意する必要がある。ケモノとは「擬人化的特徴を持った動物キャラクターであり、それらを愛でる人はケモナーやケモノ好き」と呼称されるのに対して、ファーリーは「キャラクターも愛好家やコミュニティ自体もファーリー」と呼ばれる。
ケモノの派生ジャンル[編集]
ケモノという単語をしばしば接頭辞(時には接尾辞)とし、「ケモ-」を追加することでケモノジャンルの派生を表すことがある。
- ケモナー – ケモノを好む人の総称
- メスケモ
- オスケモ
- ケモホモ – ゲイのケモノ
- ケモ百合 –レズのケモノ
- ケモショタ –ケモノのショタ。ケモホモと比べると対象の年齢層が低く、範囲が広い。
- ケモロリ – ケモノのロリ。
- デブケモ – 太ったケモノ。
- けもにょ – ケモノ+尿の造語。放尿をしている(されている)ケモノ、あるいはそのジャンルを差す。
- ケモロボ – ケモノの姿をしたロボット。見るからに機械だと分かるものから、中身が見えるまで生身のケモノと区別がつかないものまで多種多様。
- ケモ足 – 脚の形状が動物の脚を元にしているものの呼称。「逆間接」と称されることもあるが動物の脚は踵が長くつま先立ちであるだけであり、関節が逆というわけではないのでこれは間違った呼称である。
- けもりぅ – ケモノの姿をしている竜。ケモドラ、ファードラとも。
- ヨツケモ – 四足型のケモノ。単に「四足」という単語が書かれた場合はこれを示していることが多い。
補足[編集]
- 獣人も擬人化された動物のことを差すため、しばしばケモノと混同される。
- 獣人は主に擬獣化された亜人を、ケモノは擬人化された動物を総合的に差すことが多く、この言葉の差異が混乱を生じている。
- また、写実性の具合によってケモノと獣人を隔てる場合もある。
- ケモノを愛する人達をケモナーと総称するが、近年、発生するトラブルによってこの呼称は忌避される傾向にある。
関連項目[編集]
参照元[編集]
- ↑ Nakamura, Kyoko Motomochi. (1973).Miraculous Stories from the Japanese Buddhist Tradition: The Nihon Ryouiki of the Monk Kyoukai. Cambridge, MA: Harvard University Press,.
- ↑ Miho Museum鳥獣戯画 断簡(丁巻)、鳥獣戯画甲巻全画像
- ↑ 歌川国芳展
- ↑ 人力車夫狐に化かされる
- ↑ シベール vol. 2, p.7,54
- ↑ "計奈 恵"「INU氏は シベール当時はロリの中でも異端扱いでしたケド今振り換えるとぐろおばるでしたね(;^^A)」
- ↑ G SPOT, p.56
- ↑ "ワン・ニャン倶楽部発行オフセット同人誌一覧" - 2000年11月18日
- ↑ ごめんネ, pg.110
- ↑ 獣人祭サークル参加案内